マラウイ派遣レポート

マラウイの農村でみた住民の健康づくりへの取り組み

今年5月から始まったマラウイの「子どもにやさしい地域保健プロジェクト」の視察を目的に8月10日から10日間の日程でマラウイのプロジェクトサイトであるムジンバを訪れてきました。成田から香港で乗り継ぎ南アのヨハネスブルクまで20時間。そこから更に2時間半でマラウイの首都リロングウェに到着します。ムジンバはそこから北へ250キロ。舗装された道路が一直線にアフリカの大地の上に敷かれ、リロングウェからわずか3時間弱で到着しました。

私の視察の目的は統計・疫学の専門家としての立場から、プロジェクト開始時期における初期調査の進展具合や問題となる点がないかどうかを調べることでした。このプロジェクトでは統計学的または疫学的手法を用いて、プロジェクトの中間評価や最終評価を行うことにも力を注いでいます。

調査については、現地に長期に滞在される齋藤専門家が現地のスタッフと共同で、既にデータ収集を終えられていました。私もかつて開発途上国でのフィールド調査の経験がありますが、こういった調査を日本で実施する場合に比べ、多くの様々な困難さがあります。調査対象者の人口が分からずランダムサンプリングが困難なこと、調査対象者へのアクセスの悪さ、現地の言語を理解する質問者の不足とトレーニングの必要性、対象者の識字率の低さなどクリアしなければいけない問題がたくさんあります。こういった問題を一つ一つ解決され調査を実行された齋藤専門家のスキルの高さには脱帽いたしました。単に統計・疫学の知識だけでなく、現地のスタッフとの信頼関係の構築がなければ結果をだすことができない業務だと思います。

それ以外に、フィールドで行われている母子保健活動を視察する機会を得ました。マラウイではプライマリレベルでの保健医療活動の担い手はHSA(Health Surveillance Assistant)と呼ばれる職員です。彼らの診療や母子保健事業の活動を見学し、数名のHSAとのディスカッションを通じ、彼らの通常業務を実行する上での問題点などについて知ることができました。多くの開発途上国に共通の問題ですが、ここでもプライマリレベルで活動する彼らスタッフへの過剰な業務委託や士気の低下などの問題が見られました。人々の健康行動を変えるには、上からの押し付けはあまり効果がなく、住民みずからの意思での実践が効果的だと考えられています。HSAによる上からの指導には今の体制では効果の期待が薄いと思われたなか、住民による自発的な健康づくりに対する実践例を見ることもできました。

ヘルスセンター近辺の村の粉ひき場を訪れた時、主食のシマの精製に通常の材料のメイズに大豆を加えて挽いているのを見かけました。さっそくこれを行っていた村の主婦に話を聞いたところ「足りない栄養を補うためにやっているのだ」との回答。健康を保持増進したい気持ちはどこの世界へいっても変わりません。きっとこういった住民の自発的な健康づくりへの取り組みや、その芽生えがあるはずと思っていた私は、その場で小躍りしてしまいました。こういった意識や取り組みをサポートし村中に広げていけば、乳児の栄養改善につながるのではと感じました。

(財)江戸川区医師会臨床検査センター 管理医師 松葉 剛

主食のシマ。メイズのでんぷんを固めたもの。日本の白米同様、精製する際に栄養を多く含む部分をそぎ落としてしまうので、栄養価的には問題があるといわれている

マラウイ「子どもにやさしい地域保健プロジェクト」の活動開始

平成25年4月18日にマラウイ政府と了解覚書(Memorandum of Understanding)を締結し、その後5月30日にJICAとの草の根技術協力事業の契約作業が完了し、プロジェクトが開始しました。

プロジェクト開始にあたり、ベースラインサーベイの対象者の実数を把握するため、人口調査を行いました。人口調査はコアの対象村とする8村の全世帯を訪問し、各世帯のすべての構成員の生年月日、性別、特に5歳未満児の把握に心がけました。なお、調査員は村長さんを通して、村人からボランティアを選んでもらいました。村長さんの推薦とはいえ、それぞれ資質は異なり、一回の説明で実施可能な人もいれば、こちらの説明を理解していたように見えたのに多くの記入漏れがあったり、調査用紙の大部分を紛失したりした人もいました。8人中ほぼ問題なく実施できたのが2人だけでした。

10日間の調査実施期間中、地域の情報をほとんど持たないプロジェクトの運転手と私でほぼ毎日ボランティアの実施状況を抜き打ちで訪問し、励ましながら確認・指導を行いました。事前連絡を行わずにボランティアを訪問した理由は、業務量が多いヘルスセンター職員に負担をかけないためでした。夜には携帯電話を持つボランティアとその日の実施数の確認をしました。村には電気が来ていませんが、最近太陽電池の普及が進み携帯電話の充電が可能となったため、その保有者が驚くほど多いです。しかし、電波の具合などで同じ村にいても通信不能であったり、実施件数をSMS (Short Message System) で送付してもらっても受信までの時間が長くかかったり、日本の事情とは大きく異なる現実を経験しました。

現場での頻回な確認作業のおかげで8村の位置や特徴を把握することができ、村長さん、ボランティア、一般の村人とも知り合う機会となりました。また、運転手はブッシュの中の小道を迷うことなく対象村までたどり着くことができるほど、この地域のエキスパートになりました。ムジンバ地区は世帯間がとても離れていて、大きい村では280世帯もあるため、歩く以外に移動手段を持たないボランティアにとって調査は容易ではなかったと思います。この貴重なデータはヘルスセンターとも共有する予定です。

ベースラインサーベイではこの人口調査データから村別の2歳未満児のリストを作成し、これらの子どもたちの割合を参考に無作為に対象者を100人抽出しました。今回は世帯間の距離がとても離れていることから、世帯訪問ではなく村でGrowth Monitoring(子どもの身体計測測定)を実施している拠点(最小の保健施設であるヘルスポストあるいは小学校)に対象の子どものお母さんたちに来てもらうようにしました。その連絡は末端の政府の保健要員であるHSA(Health Surveillance Assistant)と人口調査を担当したボランティアに依頼したところ、当初ちゃんと来てくれるか不安でしたが、86%の参加がありまずまずの結果でした。

ベースラインサーベイの質問票はプロジェクト関連のデータをより広く得るため、多岐にわたる内容でボリュームがあります。また、収集するデータはプロジェクト開始時点のベンチマークとなるため重要なものです。調査前に、県病院の看護師や衛生保健官、その他看護大学の講師などからなる調査員へのトレーニングと対象外の村での質問票の模擬テストを行いました。調査は8月上旬に集中的に5日間かけて行い、現在データの集計中です。この結果はまた追って報告いたします。

ISAPH事務局 齋藤 智子
体重測定の様子