ラオスにおける生活環境調査報告

財団法人九州産業衛生協会環境科学センターは、環境計量(水質分析等)を中心とした環境保全活動を行っている聖マリアグル-プの一員である。当財団の井手義雄理事長より、「今後東南アジアにおいて環境科学センターにどのような活動ができるか、また海外援助活動ができるのか」の問いかけがあり、今回ISAPH の活動地であるラオスに赴き調査を行った。

具体的な調査方法は、ラオス・カムアン県のタケク市(市街地)とコクトン村(農村部)の現地調査による環境衛生状況の把握であり、その一環として農村部の井戸水の簡易水質分析を行った。調査は、ISAPH 職員、県及び郡の役人、コクトン村長及び住民の方々等の協力で行うことができた。以下にその概要を述べる。

調査概要

  1. 調査期間:平成18年5月22日~26日
  2. 調査地域:カムアン県セバファイン郡タケク市及びコクトン村
  3. 調査内容:生活用水、排水、し尿処理、ゴミ処理等について現地調査
  4. 水質簡易分析:コクトン村等の井戸水検査21 ヵ所(分析内容:pH、亜硝酸、大腸菌群数、砒素及び目視観察)

調査結果

生活用水

コクトン村では炊事、洗濯および飲料水は井戸水を使用している。井戸は人力による素堀り井戸である。コンクリ-ト製リング(ISAPH LAOS の支援により作製)がある井戸とない井戸があり、蓋がある井戸はほとんどない。深さは10 m 以内で概ね家の近くに掘られている。村人は、通常沸かし湯(お茶)を飲むようである。ただし、子どもは生水を飲む場合もあると聞いている。タケク市での生活用水はメコン川の水を取水し、浄水場で凝集沈殿により浄化を行っている。塩素滅菌処理は確認できなかった。飲用には多くは市販の水を使用しているようである。

し尿処理

コクトン村では村人の排便・排尿は、家の近くの茂み等が使用され、その場所はほぼ決まっているとのことである。家畜(山羊、鶏、豚、牛、水牛)は、人の排泄物及び生活ゴミを餌としており、家の周辺で排泄している。家畜の排泄物は、乾期には家の周辺に散乱し、尿は地下に浸透している。しかし、雨期には出水により水位が上がるため、流亡すると思われる。
  タケク市では人の排泄物は、水洗及び落とし込み式水洗便所が使用されている。便所の下に深さ約2m 程度の縦穴が掘られており、満杯になったら穴の位置を変えるなどして処理している。水洗便所には浄化槽や下水処理施設はないとのことであった。雨期には、縦穴が浸水し河川等に流亡することもあるとのことであった。

排水処理

コクトン村の家庭用水は、井戸から汲み上げて厨房の水溜に溜めて使用される。炊事、洗面等に使用した雑排水は、そのまま床下に垂れ流している。乾期は床下で溜まり水となり、その後地下に浸透している。
  タケク市の家庭の雑排水は、水路を通って河川に排出されていると思われる。水路は土側溝のようなもので、コンクリ-ト溝は亀裂が入り完全なものは存在しない。乾期は、河川に到達する前に亀裂よりほとんどが地下に浸透しているものと思われる。

生ゴミ処理

コクトン村での食生活は、ほぼ自給自足で主食はもち米、副食は野菜、果実、川魚が主である。祝い事や遠来のお客がきた場合に鶏、山羊等のご馳走を振る舞うようである。食生活からの生ゴミの調理かす、食べ残りかすは高床式の床下に投棄している。投棄された生ゴミは、家畜の餌となりほとんどゴミは発生していない。その他のゴミは、焼却処分しているようである。
  タケク市での生ゴミ等の処理は、大型の古タイヤを加工した立派なゴミ箱が各家の前に置かれ、それに投棄している。ゴミの収集は、2 台の収集車(トラック)で回収し廃棄物投棄場に集められ、野焼きによる焼却処分を行っているようである。埋立地を見た限りでは、一人当たりのゴミの発生量は日本に比べ非常に少ないと思われる。

水質簡易分析結果

  1. コクトン村の井戸の深さは、概ね10m 以内、水深約1 ~ 3m 程度である。そのため、水温は外気温の影響を受け易く、調査した井戸全てが26 ~ 27℃であった。
  2. pH は、平均値で6.4 とやや低いものの、全て日本の水道水質基準値を満足していた。
  3. 砒素は、調査した14 ヶ所の井戸全てで検出されず、コクトン村には地質由来の砒素汚染はないと考えられる。
  4. 大腸菌群は、全ての井戸より検出され、WHO の基準値を満足していない。測定値を換算すると、400 ~20,000 個/100mL であり、日本の1級河川の上流から下流にかけての大腸菌群数と同程度である。井戸のリングあり・なしでは、リングありの方が大腸菌群は若干低い値を示しており、井戸にリングをつけることは、大腸菌群対策としてある程度有効であり、ISAPH LAOS の支援の効果が認められる。
  5. し尿汚染の指標である亜硝酸が18 井戸中11 井戸で検出された。日本の井戸では検出されることはほとんどない。コクトン村の井戸水は、家畜のし尿や家庭排水が、大腸菌群の汚染源と考えられる。

今後の対応

コクトン村の井戸水は煮沸した後に飲用することが重要である。井戸には、雨水・粉塵対策として、リングに加えて屋根や蓋を作ることが望ましい。また、井戸の周りに水が溜まらないように排水溝を掘ることも大切である。家畜の糞は、畑地への還元することが望ましい。

今回のコクトン村での調査は、乾期の調査であった。衛生状況が更に悪化すると思われる雨期についても、生活環境調査(現地調査、水質測定)の必要があると思われる。

今後ラオスにおいて大切なことは、水質(環境)分析を行う人の教育養成である。水質分析は高度な分析手法でなく、身の丈にあった分析法が望ましい。また調査データを評価し、環境改善に役立てることのできる人の育成も大切である。

なお、環境科学センターが今後ラオス・カムアン県において、支援できる活動には下記のものが挙げられる。

  1. 現地における測定の実施、井戸掘りの方法、ポイントの選定指導
  2. ラオス国での水質検査の実施者(機関)の育成・指導
  3. 環境衛生教育の実施

おわりに、今回の調査に対しNPO 法人ISAPH、聖マリア病院国際協力部及びラオスの関係者のご協力により、現地調査が滞りなく進められたことに対しお礼と感謝を申し上げます。

財団法人九州産業衛生協会環境科学センター 甲斐田 照明(環境部門技術士)